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上陸、そして、トラブル。
ようやく船は話し声もかき消すほどだったエンジンの騒音を小さくしながら、スピードを落として港に入っていく。
いよいよ目の前に波照間の港。
だが、港と行っても少し離れたところにターミナルの建物が見えるのと船が接岸できる護岸があるだけで、後はどちらかといえば鋪装もされていない更地といった風景。
先には島の中心に向かうと思われる登り坂が見えるだけ。
でも、船の上から見えはじめた時には感じなかったが案外島には起伏がありそうだ。
岸には民宿の送迎の車が5、6台並んで停まっている。
いつの間にかすっかり二日酔いから復活していたので、接岸する前から自転車をかついですでに上陸スタンバイ状態、ノリノリである。
接岸すると真っ先に上陸。自転車をとりあえず置くと、宿の車を探す。船に乗る前に連絡を入れているので迎えが来ているはず。
車にはそれぞれ宿の名前が入っているのですぐわかった。端に停まっていた民宿K荘の車の運転席に座る御主人に挨拶。すごく人のよさそうなおだやかな感じの御主人だった。
自転車を見てちょっとびっくりしていたようだが、どうやって宿まで連れて行こうかという困惑だったようで、「折り畳みますから載せてもらえますか?」と話すとすぐおだやかな表情に戻った。
宿泊者無料で自転車を借りられる宿に自転車を持ってくる奴はかえって迷惑かもしれない。
車の後ろに畳んだ自転車を積むとゆっくりと坂道を登りはじめた。
段差があると自転車に気を遣ってだろう、さらにスピードを落としてくれている。
車内から見る外の景色は強烈な太陽光線のせいか、とにかく白く眩しい。
「コート盛」の横を通り、坂を2つほど登ると集落に入っていく。
低い石積みの塀に赤瓦の家屋が並ぶ沖縄らしい風景の中をゆっくりゆっくり車が進んで行く。道は聞いていた通り、かなり鋪装が進んでいるようだ。
ところどころで車が曲がるともうどこを見ても同じような家屋しか見えない。これは気を付けないと迷いそうだ。小学校の横を通りさらに進んでいく。
K荘は島のほぼ中心にあるので港からはとにかく奥の方まで入って行くことになる。それでも10分とかからないのだが。結局御主人とは一言も喋らないままK荘に着いた。
まあ、景色に気を引かれていたのもあるけど。
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宿に着くとよく波照間の載ったガイドブックに写真で見ることがある、あの「おばちゃん」が出迎えてくれた。
せかされるように一番奥の部屋に荷物を置いた後、宿帳を記入する。
噂どおり、その間おばちゃんは喋り続けていた。さっきの無口な御主人とは本当に対照的。
「さんぴん茶」を一杯いただいた後、おばちゃんも何やら喋りながら忙しそうにどこか奥の方に行ってしまったので早速、島の散策に出ることにする。
用意してきたラフな服装に着替え、カメラを持って宿を出る。
玄関を一歩出ると宿の周りは本当に普通の島民の家屋が並んでいる。
強烈な日差しの中、外には人陰がない。
ちょうど昼時ということもあるだろうが、本当に静まり返っていてある種の不気味さすら感じる。
耳に音が入ってこないのだ。
普段様々な音に包まれて生活している反動としても、音が聞こえないというのがこんなに違和感と言い様のない不安感を感じさせるものなのか。
とにかく自転車で南に向かうことにする。
ありきたりだがまずはやっぱり南の果ての海を見に行こう。
自分の感覚だけで集落からまず南に向いて外に出た。
最南端の碑のある「高那崎」の方向を示す看板をうまく見つけてその道を進む。
が、ここでトラブル発生!自転車の変速が出来ない。
ハンドルにある変速グリップをひねってもギアはうんともすんともいわない。4速に固定されたまま。
ハンドルの変速機のカバーがどうも歪んでいる。どこで壊したのか?
うーん、中で空回りでもしているようだが、どちらにしても、ここでどうすることも出来ない。
修復はきっぱり諦め、4速だけで走り出す。走れないわけではない。
ギアボックスが壊れても、生きているギアだけでレースを続けるF1レーサーの気持ちが少しわかった気がする。
こうして高那崎を再び目指す。でも、F1のように快走するわけではない。
道端の植物にも気を付けながら、ちんたらちんたら走る。
その理由は。