宿。
まだ宿の食事の時間までは時間があったが早めに帰ることにする。
日没をここで見てみたかったが、時間的に宿の食事の時間に重なりそうなのであきらめるしかない。残念。
のんびりと自転車で下ってきた坂道を登るが、きつい登りが続く道、ギア無しでは無理。
結局、変速機付きの自転車を押して登る。
これでは「ママチャリ」と変わらん。なんとか直せないものか。
集落に向いて坂を登っていくと風車が見える。
その発電所の横を通って、集落に入る。
さてここまで来て気が付いた。
さすがに今日着いたばかりで、宿の場所がよくわからない。
用意していた地図も宿に置いてきていた。
「走ってればそのうち辿り着くか。」と適当に集落を回るが、K荘は他の宿と違って本当に普通の家並の中にあるので走ってれば見えてくるわけでもなく、同じような家の並ぶ中では見つけにくい。
宿に着いた時、おばちゃんから聞いていた「家の玄関はほとんどは南向きになっている」というのを手掛かりにしたが、それでも同じだった。
だが夕方近くなってきて、涼むためか、昼間は人影の無かった集落にはぽつぽつと人の姿が見えだしていた。
ここは地元の人に聞く方が早い。前を歩いていたおじいさんに聞いてみる。
「すみません、K荘を探してるんですが?」
ちょっとびっくりされたようだったがすぐに前を指差して、
「ずーっと真直ぐ行ってぐっと曲がるさ。」
そんなふうに聞こえた。
「・・・・ありがとうございます。」
聞く相手を間違えたかな?
「そこら中曲り角だらけなんやけど、どこ曲がんねん」と内心思う。
まあ、真直ぐ行ってまた聞いてみよう。ということで「ずーっと真直ぐ」行って適当に曲がってみた。
・・・・なんとK荘の目の前に出た。呆然。
・・・・「郷に入っては郷に従う」ということか。
初めての宿での食事はいささか食べるのに集中。
このK荘を選んだ理由は「必ず島の山菜を使った料理、地元の家庭料理にこだわっている」と聞いていたこと、有名な民宿Tのように量が多くない、静かそう、ということだった。
初めてこの宿の他の宿泊者とも顔を合わせることになる。
家族連れが一組、後は、男女1人づつの一人旅の旅行者。
皆が席に着いて食事を始めると同時におばちゃんは横でその家庭料理の説明をひたすら喋り続ける。
が、聞いてるといつまでも食べられそうにないのでとにかく箸を進めた方が良さそうだ。
それぞれの料理の量は少なめだが品数が結構あるので腹は十分満たされるし、初めて食するものがやはり多かったが、とにかくうまかった。
そんな長い時間ではないが皆が食べ終わるまでの間、おばちゃんは喋り続けていた。
食後、近くの共同売店で買ってきたオリオンビールを寝そべりながら部屋で飲んでると、やたら畳の上をアリや小さな虫がはっている。虫よけスプレーは役に立ちそうだ。
ビールが無くなる頃、食事の時に顔を合わせた女の子から誘われて散歩に出ることになった。
もう一人のカメラマンを目指しているという男の宿泊客は来ないらしい。
外は外灯が少ないせいか、かなり暗く感じる。
それでも外灯はかなり増えたと、島に来るのが5回目だというその彼女が教えてくれた。
とくに行先を決めるでもなく港の方に向いて喋りながら歩いてると、やがて後ろから白いネコがずっとついてくるのに気付いた。
離れようとしないので仕方なく時折すれ違う車にはねられないよう気を付けながら歩く。
人ともすれ違うが、その度に彼女は「こんばんわ」と必ず誰にでも声をかける。
波照間島に限ることではないが、観光で訪れたとはいえ島の住民からすれば彼等の生活の中に入り込んだ「よそ者」でしかない。
以前の観光客のトラブルのことを考えると、彼女のこの「挨拶」は強く印象に残った。
いつしか、目が慣れたのか、周囲がよく見えるようになっている。
「満月が近いと月って結構明るいですよ。」と、もう一つ彼女に教えてもらう。
ずいぶん歩いたようで民宿Tの手前まで来ていた。
さすが噂に聞くTの宿泊客は元気そうだ。宿の前で騒いでいる声がよく聞こえてくる。
彼女はこういう騒ぎが苦手なのか前を通ることをためらっているように思えたので、彼等に見つからないよう来た道を引き返すことにした。
すでにK荘の周りは静まり返っている。やはり夜はかなり早く寝静まるのだろう。
シャワーを浴びて部屋に戻るとかなり早かったが横になった。