蝶が。
港から北側を自転車で走りはじめると、やはり人影はほとんどなくなる。
野ざらしになったまま、かなり時間の立っているような重機や砂利の山もあり、風景もなにか殺風景にも思えた。
いつしか自転車をこぐスピードが速くなっていく。
そうしてようやく空港に向かう道に出たのでとにかく向かってみる。
ひたすら一本道なのだが、相変わらず、人にも車にも会わない。
そろそろ脱水状態になってきた頃に空港に到着。
飛行機の時間は過ぎているので、全くの無人。
およそ空港というイメージからは程遠く、空港といわれても信じられないのではないか。
特に何もないので自販機でジュースを買ってさっさと戻ることにする。
空港からの道を真直ぐ集落まで帰り、宿に一旦戻る。
シャワーを浴びた後、最後の目的、「泡波ミニボトル」を探しに出かける。
もともと3合瓶や1升瓶を持って帰るつもりもなく、「話のネタ」に最初からミニボトルを探すつもりでいた。
余りの「泡波」の過熱振りに「ミニボトル」は比較的多く出回るようになっているようだし、たらふく飲みたくなればまたこの島までくればいいと思う。
こちらに来てからうわさに聞いていた○○売店に直行。
「ここにはないですけど、たぶん××売店にあると思いますよ。」
そこにはなかったのだが店番の女の子が御丁寧に店の場所まで地図に書いて教えてくれたので、かえって戸惑ってしまった。
その教えてもらった店に行くと、あっけなく5本のミニボトルをGETする。
「みんなお酒飲める?」
夕食にはまた「泡波」が出た。こんなに口にできるとは思ってなかった。
食事が終わる頃からは蝶の話になる。この島には確かにいろんな種類の蝶が見られる。
おばちゃんは意外なほど蝶に詳しかった。
おばちゃんが手づかみで捕まえたという(!)かなり貴重な蝶の標本をはじめ、台所の方から次から次に蝶をはさんだパラフィンの三角紙を出してきて喋り続ける。
蝶の名前まではっきり把握できてるわけではないがその三角紙の量には驚いた。
どこから出てくるのかよく見てると小振りだがタッパーケースのような容器の中に三角紙が「てんこもり」になってる。
しかし、それではお世辞にも状態よく保存できてるとは言えるわけがない。
時々宿泊客にこうやって見せているせいなのであろう、脚や触覚が取れたのが多い・・・・。
中には頭や腹がないのもあるとか。
そうして三角紙を開いているうちに、扇風機の風に一匹の蝶があおられた。
「ああーっ!」
皆が慌てる中、その蝶はテーブルの小皿の醤油の中に落ちてしまった。
ところがおばちゃんはいっこうに気にすることもなくさっさとまた三角紙にその醤油漬けの標本をしまい込むともう次の三角紙を開こうとしている。
「扇風機止めた方が・・・・」まわりに言われるまでもなく、慌てて扇風機を止めにかかるが、そんな宿泊客のバタバタにも気にすることもなく、おばちゃんの「蝶談義」は続く。
ようやく蝶談義が落ち着いたころ、皆から「ちゃんと標本にした方がいいですよ。」の声があがったが、おばちゃんには通用しなかった。
「ボロボロになったらミキサーにかけてフリカケにでもして食事に出すさ。」とニヤリ。