「葉から芽」に「ヤギ」
「あった!」
あっけなくすぐに道端にその植物は見つかってしまった。
木の下の草の生い茂る中、固まって生えている、野生の「セイロンベンケイソウ」だ。
ギザギザの葉と葉の付け根が節のように見える茎、間違いない。しかも日本最南端の自生地の。
「セイロンベンケイソウ」は「葉から芽」の呼び名もあるとおり、葉っぱから芽が出て殖える亜熱帯の植物だ。
日本では南西諸島、小笠原諸島で自生している。
「葉から芽」の様子が面白いので密かに人気はあるようだ。
竹富島あたりだとお土産として売っているらしい。買わなくても雑草のようにその辺にいくらでも生えてると思うが。
ここで葉っぱを数枚、採取させていただく。
ただし、同時に葉っぱを何枚か地面に落として新しい芽が出るように植樹活動することも忘れずに。どんなに小さくても自然破壊はいけないこと。
葉っぱをしまい込んだ後、車の近付く気配がして後ろを振り向いた。
「・・・・?」
なにも見えない。辺りを見回してもその気配を発しているらしきものが見当たらない。
2mほどに伸びる沢山のサトウキビと木が立っているだけ。相変わらずの強い日差しと耳を撫でる風がまた違和感を思い出させる。
それからも「最南端」を目指すが、この何かの気配に時折、振り向くことがしばしば。本当に気味が悪い。
「高那崎」の方向を示す看板を辿りながら、しばらく走ると真直ぐ伸びる道路に出た。
青い空が上にぽっかり開く。左右には広く草むらや畑、先には両脇に茂る木々の間から深い青色の海が小さく覗いている。
小さく覗いているだけだが、そこに目を奪われる光景。
自転車を止めて写真を1枚。
と、また背後に気配!今度は何か違う?
とっさに振り返えると、目の前1mに「ヤギ」。
(c)S-ORA
「おわっ!」
驚かせるつもりはなかっただろうが、こっちは結構びっくりした。
放し飼いにされているヤギがいることは承知していたのだが、背後をつかれるとは不覚。
「こっち向いてくれ〜っ!」と写真を撮ろうとお願いするが聞いてくれない。
そのヤギは自転車のそばをうろうろした後、無表情に道端の草むらに入っていった。
辺りをよく見るとヤギはもう1匹、遠くには建物と柵が見えて牛も見える。
また車の近付く気配に振り返る。
「・・・・。」やっぱり誰もいない。
と、ここでこの気配の正体にようやく気付いた。
さっきから時折強く吹くこの風のいたずら・・・・だった。
耳に入ってくる音は風の音しかない。
その風の音が時々、軽トラックのエンジン音に聞こえて錯覚していたようだ。
ちょっとした臆病風というやつか?